「孤独」を再定義する

「孤独」を再定義する

By 齊藤 大輔 投稿日: / 最終更新日:

金沢市の中心地である竪町にSaltyをオープンして、もう数日で10年が経過しようとしています。

この10年の間に、それはそれは色々なドラマがありましたし、自分の中でもどんどんとフェーズが変わっていきました。

まずは世捨て人期。オープンしてから5年程度は強大な不安に飲まれない様に、起きている時間の9割はひたすら仕事ばかりしていました。
毎日朝から夜中まで、休みなく仕事をすることでそれまでの友人との関係も希薄になり「あいつ変わったな」と後ろ指をさされていたであろう時期です。

次に病み期。多くのセレクトショップが同じタイミングで同じブランドを取り扱いしようと躍起になっていることに嫌気が差してもやもやしていた時期。
お取り扱いしていたブランドが爆発的にバズって人気が出て、商品を右から左に流すだけという自分が何も生み出していない状況が気持ち悪く、人気のピークでお取り扱いをやめるという愚行に出たこともありました。
「何のためにわざわざリスクを取って独立してお店を出したのか」と自問自答したかなり遅めのモラトリアム期です。
コロナ禍で世の中に閉塞感があったのもこの頃ですね。

その次は長らく続く、足踏み期。頭の中であれこれ考えているだけで何か行動している訳でもなく、3年前と何も変わっていない様な、非常に危険なパターンに陥っている時期です。
変化の激しいこの業界で、数年間何も変わっていないなどというのは、じわじわと衰退しているようなものです。

長い足踏み期、いやその前の病み期から考え続けていたおかげで頭の中ではっきりとして来たのは、「ここから離れなければならない」ということ。

それにはランチェスター的な意味合いもありますが、周りと同じ土俵で戦う為には「トレンドに迎合し取り扱いブランドをころころと変えること」、「セール」など、自分のポリシーに反することをする必要が出てくる為です。

また、同時期によく考えていたのはAIの台頭について。
ほんの一年半前くらいまでは指の数がおかしかったり、物理法則を無視した挙動によって「チープなAIらしさ」が見られるAI動画が多かったものの、ここ最近は「これリアル?AI?」という間違い探しから始まる程になり、その進歩のスピードは加速度的です。
そしてこれからも急速に進歩し続けるAIを誰もが使用出来ることで、身の回りにAIが介在する頻度が劇的に高まり、世の中はより便利になってゆきます。

便利になることは喜ばしいのですが、同時に失われるものもあると考えています。
日常的にAIと接する比率が高まり、アナログな人間同士の関わり合いは薄れてゆく。

その傾向が強まる程、「人間らしさ」「人のあたたかみ」の価値が高まり、それを求める人も一定数存在し続けるのではないか。

そのような考えに至りました。

前述の自分のポリシーに反することをせずに済む為に「トレンドに流されず、独自の世界観と確固たる価値を持つ」、そしてAIへのカウンターとして「不均一でゆらぎのある、人の手のあたたかみを感じられる」。

それらが適う作品をご提案する為に、新たに店舗を出店いたします。

そちらの店舗には「Solitary/ソリタリー」と名付けました。

"solitary"は英単語そのままで、「孤独な」という意味を持つ形容詞です。
"lonely"という英単語も日本語訳では同じく「孤独な」と訳されてしまいますが、"lonely"とは異なり"solitary"には「寂しい」というネガティブなニュアンスがあまりなく、むしろ「自ら積極的に選択して独りでいて、その状態を楽しんでいる」というイメージでよく使われます。

何度も申し上げている「トレンドという母集団から離れる」、それを「自らの意思で選択する」というお店には最適な名前だと思うのです。

また、そのスタンスの象徴として、竪町という中心街から敢えて離れ、周りに何もない静かで美しい場所を選びました。

全国三千余社の白山神社の総本宮である白山比咩神社から車で一分という、神社好きにはたまらない立地です。

金沢からは車で30分で行けるのに、遠く県外に旅行に来たかの様な、全くの別世界。

晴れた日は爽やかで綺麗で、雨の日には山に靄がかかり幻想的な姿に変わる。

日常を忘れてリフレッシュ出来る、素晴らしいロケーションです。

この新しいお店でお取り扱いさせていただくブランドのデザイナーと食事をしながら話していた時のこと。
「片田舎のアトリエで独りで製作しているんですけど、周りに同じ価値観の人がいなくて浮いてます」とおっしゃっていた。

その後こちらのお店のコンセプトをお伝えした際に、深く共感されて「孤独、独りでいることが悪いことじゃないと背中を押してもらった様な感覚です」と言っていただいたことが強く記憶に残っています。

主たる集団とは異なる価値観を持ち、周りに流されず自らの意思で選択している。
それがデザイナーであれエンドユーザーであれ、そのような方々の受け皿となり、同じ価値観を持つ方同士でコミュニケーションが生まれる場でありたいと思い、9月18日(木)よりSolitaryを始動いたします。

とても難易度の高い挑戦となることは想像に難くありませんが、あたたかく見守っていただけましたら幸甚です。

Solitary
〒920-2113
石川県白山市八幡町ヌ26-12
070-9187-4449(道に迷われた際はお気軽にお電話くださいませ)

【オープン予定日】
2025年9月18日(木) 12:00

※内装工事の進行状況により変更となる可能性がございます。変更がある場合はSNS等でお知らせいたします。

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